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レースに立ちはだかるクレーマーの壁! “本場”イタリアも大会開催に苦心 | Cyclist - Cyclist(サイクリスト)

 新型コロナウイルスによる移動制限が解除になり、まだ不安が残っているものの、レースシーズンが本格的にスタートしました。ワールドツアーレースも始まり、現在、待ちに待ったツール・ド・フランスもやってきました。

本格スタートを前に中断していたイタリアのレースシーズンが、ようやく再び幕を開けました © General Store

 こうやってみると、ヨーロッパでは自転車レースが盛んで社会的にも認識・支持されているように見えます。しかし、ヨーロッパでもレースの実施は決して簡単ではありません。

 150回目となったこのコラムでは、レース運営の難しさと社会の変化について分析したいと思います。そして今年からスタートした新しいレースの担当者にもインタビューし、レースの誕生の裏側に迫りました。レースを企画したい人にとって必見です。

レース反対の市民!

 9月5日(土)にイタリア北部を代表する温泉地の一つ、モンテグロット・テルメで、ロードレースのジュニア国内選手権が行われる予定です。イタリア中からレース関係者や親族など、最低でも2000人がやってきます。テレビでも生中継される予定で、稀に見る大規模のスポーツイベントです。

 にもかかわらず8月26日(水)付で組織委員会長兼チーム・ワーク・サービスマネージャーのマッシーモ・レヴォラート氏に水をさすような意見書が届きました。地元のAPPE (Associazione Provinciale Pubblici Esercizi:地方サービス産業協会)から「9月5日のイタリアジュニア選手権は、コミュニティに不便をもたらすでしょう」という内容でした。

問題を取り上げた地元新聞

 発端となったのが、コース上にある何件のレストランのようです。レースに伴う通行止めにより、お客さんが減り、その日に休業せざるを得ないということのようです。新型コロナウイルスによるロックダウン解除後だけに死活問題のようです。

 マッシーモ・レヴォラート氏はすぐさまに反論し、ロードレースがもたらす経済効果にも言及しました。そしてロードレースによる通行止めの仕組みがわからなくなっていることに驚きを隠しませんでした。通行止めは一時的なもので、レース開催時間も午後。逆に地元の経済活動に配慮したものです。とにかくレースが地元に歓迎されていないことに驚きました。

社会の変化とどう付き合うか

 確かにイタリアの社会も、この数十年で著しく変わりました。他のスポーツ大会と同様に、伝統的にロードレースは土日に集中します。かつて日曜日は休みの日で、あらゆるお店、スーパー、ショッピングモールなどは休みでした。買い物へ行く必要がなかったので、交通量も少なかったです。

 しかし1990年代後半に入り、日曜日の営業規制は緩和され、土日の交通量も大幅に増えました。現在、大都会を除き、短距離の移動手段は自家用車。イタリアも一人一台の時代です。道路に車の列が途切れることはありません。公道を使うロードレースは、自転車レースに興味のない一部の市民にとって邪魔な存在で、行政に対して道路使用許可を出さないようにとの声が年々増えています。

 仮にレースが実施されている場合、通行止め時間帯にもかかわらず、レースコースの逆走、横断、割り込みなど、ルールを無視する一般市民があとを絶たず、2020年のイル・ロンバルディアの事故に繋がる事態も発生しています。

 レースの前にはたくさんの方法で告知が行われます。地元新聞にも記事が掲載されますし、レースが通る自治体の電光掲示板には情報を掲示されます。コース上にも印刷された案内板が置かれます。それでも忙しく運転をし、インターネットで好きな情報しか見ない人にとって、こういった情報は目に入らず事故につながります。

 ほとんどの人は「レースのことは知らなかったよ」と言います。もちろん、罰金に相当する違反行為です。

新しいレースの誕生

 とにかく自転車レースは、反対する一部の市民と波風を立てたくない行政の間に立たされています。それでも、新しいレースが生まれています。

 8月16日(日)に、ダミアノ・クネゴ、エリア・ヴィヴィアーニやダヴィデ・フォルモロといった、多くのプロレーサーを生み出しているヴェロナ県に、コンチネンタルチームが参加できる新しいレースが誕生しました。成功に終わったようで、その担当者に色々と聞いてみました。

Diego Beghini(ディエゴ・ベギーニ)

 コンチネンタルチーム・ジェネラル・ストア・エッセジビF.lliクリアのチームマネージャー。イタリア通信販売会社、ジェネッル・ストア社長。ジュニア時代ロードレースに参戦し、若手選手を育成するためチームを設立。現在、ジロ・ディタリアU23にも参加。

4人の写真(左から) アレッサンドロ・スピニエッラ氏(チームスポンサー) 、ベギーニ氏、ジョルジョ・フルラン(チーム監督、1990年代に活躍したプロレーサー)、前原直幸選手 Photo: Marco FAVARO

——ベギーニさん、8月16日に第1回Gran Premio General Store sulle strade della Valpolicella(グラン・プレミオ・ジェネラル・ストア・スッレ・ストラーデ・デッラ・ヴァルポリチェッッラ)(1.12)を実施しました。このコロナ渦の中、どうやって実現しましたか? 過去にこのような構図があったのですか?

 ベギーニ氏:実はレースを行う予定はなく、レースの構想が生まれたのがスタートする14日前でした。確か7月30日に決めました。

——たった2週間で新しいレースを誕生させ準備したということですか? 本当ですか?

 ベギーニ氏:そうです。新型コロナウイルスの影響でイタリア国内のレースが軒並み中止され、私のチームを含め、若手選手のために何かをしたかったです。そこで地元自治体と調整し、どうにか実現に辿り着きました。選んだ地域は、チーム・ジェネルアル・ストアの本拠地から隣町のサンタンブロジョ・ヴァルドッビアデネ。ワイン畑が広がり、アップダウンも多い。ロードレース大会に適していました。最終的に全国から39チーム、190人の選手が駆けつけてくれました。それぐらいみなさんはレースに飢えていました。

——コースはどのようものでしたか。

周回コースのプロフィール

 ベギーニ氏:11kmの周回コースを12回、全147kmのレースでした。ほぼ平坦がありません。もっと距離を長くしたかったのですが、炎天下を走る選手の健康を考慮し短くしました。

——この規模のレースを準備するのが、大変だったと思いますが、何が一番難しかったですか。

 ベギーニ氏:我々が主催する初めてのレースでしたので、かなり不安がありました。しかし、この地域では、過去に別のジュニア大会も行われていたため、ボランティアやスタッフなど、必要な人材を集めることにあまり難しくなかったです。ボランティアを含め、運営スタッフは35人程度に収まりました。一番難しかったのが、膨大な書類の数を作成することでした。コース設定、設営、道路使用許可書のほか、新型コロナウイルス感染防止対策の書類は困難を極めました。9月末まで国による緊急事態宣言が出され、密集を避けるため、選手たち、スタッフとレース観戦者の距離をどのように保てるか、ゴールエリアのゾーニング(*)設定は難しかったです。

(*)イタリア自転車競技連盟が定めた指針によると、ロックダウン後のロードレース大会を行う際に、ゾーニングが求められる。

ゴールエリアには3つのゾーンが定められる

(1)Zona Bianca(ホワイトゾーン):選手とその親類・同伴者が入れるミックスゾーン。マスク着用義務。
(2)Zona Gialla(イエローゾーン):チームゾーン。特別許可、PCR検査をクリアした人のみしか入れないゾーン。全員ゴーグル・マスク着用義務。
(3)Zona Verde(グリーンゾーン):スタートエリア。選手のみマスク着用義務免除。

——行政の反応は? 好意的でした?

 ベギーニ氏:行政は反対も賛成もせず、全部地元警察の判断に委ねられました。行政側は、日常のルーティーンを乱すこと、慣れないことをすることを嫌がるような印象を受けました。責任も誰も取りたくないしね。地元の警察の判断は全てです。交通課担当者と一緒に何回もコースを走り「ここが危ない、そこも危ない、怪我人が出たらどうする?」ああだ、こうだ言われ、レーススタート直前まで「○○地点で、なぜまだ対策していないのか!」と言われ続けていました。気持ちはわかりますが、やはりレース不慣れな人が危ないと思っている場所と、我々関係者が危険だと思っている場所はずれがあるようです。さらに警察はもう一つの心配事を示していました。道路を通行止めする時間の問題です。周回レースの場合、選手が通過する時間以外は通行止めにしません。通行止めが実施されたにしても長くても5〜6分程度。しかし、5分も我慢できない市民もいると、クレームを恐れる警察も慎重にならざるを得ません。結果として、怪我人は一人も出ず、レースは成功に終わりました。

——運営費の話になりますが、大会を準備するために必要な費用はいくらでしたか。

 ベギーニ氏:1万数百ユーロ(約125万円)で全てをカバーすることができました。

——たった1万ユーロで?

© General Store

 ベギーニ氏:はい。我々、ジェネラル・ストアとして負担したのがその半分、5000ユーロ程度。残りの資金は地元のジャージメーカー、Aleや他のスポンサーの協賛金からもらいました。賞金もイタリア自転車競技連盟が求める最低ランクだけでしたが、出せる金額を出しました。やはりボランティアの存在は大きかったです。自転車競技が好きで無償で手伝ってくれた人が多く、助かりました。運営費をレフリー、救急車2台、レースサポートカー6台、公式オートバイ16台、関係者など67人分の食事代に使いました。地元のレストランと提携し、12ユーロ(1500円)で食事を作ってくれました。一番大きなコストは、表彰台、ゴールの横断幕、フェンス設置など、2000ユーロ(25万円)でした。

——かなり安く抑えたと感じていますが。

 ベギーニ氏:確かに安くできました。エリート、U23の大会ですと1万ユーロで済ませることがわかりました。逆にイベント運営会社に任せれば、2〜3倍の費用がかかっていたでしょう。ただ、我々は利益を生み出す必要はないです。蔓延するグランフォンド(市民レース)もいいですが、ただ単にお金儲けのための手段になっているので、未来につなぐ選手が育ちません。たからイベント運営会社に頼ることをしませんでした。

——他の参加チームの反応は?

 ベギーニ氏:とてもよかったです。大会委員会として初めての経験でしたが、コースもよかったし、スタートゴールエリアも良かったです。忘れがちなことですが、チームやスタッフが駐車できる十分なスペースも確保しました。コース沿いも大勢の人がかけつけて、想定外の大きな盛り上がりでした。今回は我々のキャプテーン、ロッケッタ選手が優勝したので、結果的にも特別な大会になりました。

© General Store

——モンテグロット・テルメに発生したジュニア選手権問題についてどう思いますか。

 ベギーニ氏:意味のないクレームですね。スポーツはチャンスです。この前のイタリアロードレース選手権を見てわかりました。コース沿いの全てのレストランは、大忙しでした。外でわざわざ椅子とテーブルを並べたレストランもありました。私は自分のお店の会計係もやっている癖でレストランのレジ打ちをよく見てました。コカコーラ、ビール、パニーニ、コーヒーなど…。午前10時から午後4時半まで飛ぶように売れていました。レジスタッフ3人がかり。これは通行止め区間にあったレストランですよ。VIPエリアを完備したレストランもありました。入場は有料でしたが、おいしい料理を食べながら選手を間近で見える立地条件。ここも混んでいました。ロードレースが見たくて、多くの人が集まります。そこにビジネスチャンスが訪れます。ここまで説明しないと、ダメな時代になりましたね。

——このレースをどう育てるつもりですか。

 ベギーニ氏:レース名には「ヴァルポリチェッラ」という言葉があります。ヴァルポリチェッラとはヴェネト州のワインの名産地で範囲がかなり広いです。今年は特別な一年ですが、来年以降周辺地域にも協力いただければ、この大会を成長させたいと考えています。

——チームの成功も祈ります。ありがとうございました。

© General Store

◇      ◇

 こうやって聞くと、レース運営におけるイタリアと日本の状況はほとんど変わりません。地元とスポーツを盛り上げたい組織委員会、動きたくない行政、事故、興味のない市民による反対運動とトラブルを拒む警察。様々な考えが絡み合います。第1回G.P.ジェネラルストアはうまくいった例のひとつですが、新規プロレースの場合、そんなにうまくいかないようです。やはり地元との話し合いは大事ですね。そして最初はシンプルに始めればいいということがわかりました。経費を抑えつつ、観客が楽しめる持続的な大会にしないとダメですね。

Marco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ

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September 07, 2020 at 09:30AM
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