新型コロナウィルスの影響により全世界でレースカレンダーがストップする中、バーチャル(仮想)空間でのレース開催や練習・走行会イベントが盛んだ。そんな中、大学の自転車部を統括する日本学生自転車競技連盟(=JICF、以下学連)が、バーチャルレースのシリーズ戦「JICF eレース 2020」をスタートさせた。
バーチャルレースイベントの定番として多く使用されているのがズイフト(Zwift)だが、今回学連が使用するのはトレーニングアプリの「タックス(Tacx)」だ。タックスのアプリを使用する理由として学連は、オリジナルのコースが設定出来ることを挙げている。
ズイフトではあらかじめ設定されたコースとそれに合わせた3Dコンピューターグラフィックスのアニメーションの中を走ることになるが、タックスでは実際の道路のデータを元にオリジナルのコースを設定することが可能だ。ストラバ(STRAVA)から実走データを取り込めば、スマートトレーナー上で勾配まで再現することもできる。タックスのアプリの中には、ツール・ド・フランスに使用されたルートやコッペンベルクをはじめとしたヨーロッパの名所コースが美しい実走映像と共に用意され、Tacxのスマートローラーを併せて使用した際には石畳のゴツゴツとした感触や舗装の継ぎ目まで、走行感が忠実に再現される。
学連は本来開催予定だったレースコースを取り入れた大会にするため、タックスを利用して4つのレースを計画。今回の「利根川個人タイムトライアル・ラウンド」は、毎年6月に利根川河川敷で開催されるチームタイムトライアルと個人タイムトライアルの大学選手権大会に使用される31.2kmのコースがタックス上に設定された。
レースは午前と午後に分けて行われ、計23名が出走。実際のタイムトライアルさながら、1分間隔でスタートしていく。
参加の基本は「おうち参加」。スマートトレーナーやパワーメーターとインターネット接続環境を用意したうえで自宅や部室にて参加する方法だが、そうした機材を用意出来ない選手のために、「仮設キャンプ参加」も用意された。これは、埼玉県草加市にある株式会社日直商会草加営業所に、スマートローラーや通信環境など必要な機材一式を用意し、参加者が自分の自転車を持ち込んでレースを走るというもの。今回は午前中2名、午後4名の計6名が利用した。それ以外の選手は自宅からの参加となったが、主催者が想定した「部室からの参加」は少なかったようだ。
レースのほうは、オープン参加したEQADS(エカーズ)の川崎三織と湯浅博貴がワン・ツーフィニッシュ。2人とも42分代前半のタイムをマーク。平均速度44km/hオーバーのペースで走り切り、同行した浅田顕監督を安堵させた。3位に京都産業大学の上野颯人が入り、学生最高位となった。
実際のコースで行われた昨年大会では、今村駿介(中央大学)の39分33秒、平均時速47.32kmという大会記録を筆頭に、42分台から45分台のタイムが大半を占める。一方、バーチャルで行われた今回はほとんどの参加者が42分台から52分台で完走しており、実走と大きくかけ離れていないことがわかる。
ちなみに、実際の利根川河川敷では風が強いことが多く、直線往復コースのため行きは追い風、帰りは向かい風という状況がタイムに大きく影響を与えることもある。
仮設キャンプから参加して全体の4位タイムを出した東京工業大学の加藤遼は、「通常の練習やレースで、300w以上で40分続けて踏んでいることはないので辛かったです。ズイフトのIRCチャレンジに参加した時は、家で普通の固定ローラーを使いましたが、スマートローラーを使うと実走感があってすごく良いですね。値段が高いですが、欲しくなりました。
練習はローラーよりも実走派なのですが、コロナの影響でローラー練習を取り入れてみたら短時間で効率よく練習出来ることに気づき、実走とミックスしてやることが有効だと思うようになりました」と、感想を話してくれた。
JICFの松倉理事長に、今回の成果と今後への課題、リアルレースの再開について話を聞いた。
「土日はリアルレース、平日夜にeレースが出来ればレース数を増やしていける」
リアルのレースが開催できない状況の中、選手のモチベーションを保ちなが力を落とすことなく来シーズンに繋げていければ、という考えのもと今回の「eレース」と、競技についての知識を深めてもらう「eラーニング」を始めましたが、色々な方々の協力を得て、可能性あるものだと感じることができました。
今回は初回だったので不慣れなところもありましたが、今回のノウハウを元に習熟度を高めれば解決できると思います。一方で、準備にかなり手間がかかっており、続けられる形にしていくことが必要だとも思っています。
学連のレースでは、クラスの昇格や残留のためのレースもあるのですが(注:ロードレース・カップシリーズ。クラス1、2、3のカテゴリーが設定され、レースの結果に応じて昇降格がある)、eレースでもある程度公平性をもってタイムで順位をつけられるタイムトライアルやヒルクライムに特化してやっていくことも一つのやり方だと思っています。
例えば、土日はリアルレース、平日はeレースというように、ヨーロッパに行かなくてもレース数を増やすことも可能です。そのためにはマンパワーも必要になってきますが、そういう方法も今後考えていかねばならないと感じています。
今の状況では、秋ぐらいにはリアルレースが開催できるかな、と考えています。詳細は今後詰めていくことになりますが、できるレースを秋以降に移し、種目数を減らして開催するなど、無理のない形で再開させていくことを考えていきたいです。
バーチャルレースの可能性は?
この大会の模様はYouTubeでライブ配信され(記事下にアーカイブ動画あり)、ツアー・オブ・ジャパン大会ディレクターでもある栗村修氏が解説を務めた。その中で、視聴者から「バーチャルレースはリアルスポーツなのか、eスポーツなのか?」という質問があった。これに栗村氏は、「まだどちらとも言えない」と回答している。画面の前でコントローラーを操作するeスポーツとは違うが、外を走っているのとは違うのでリアルスポーツではないというのがその理由だ。
一方で、eスポーツがオリンピック種目になろうかという現状を考えれば、今後バーチャルレースの世界選手権のような公式戦が開催される可能性もあるだろう、とも栗村氏は語った。
学連でも、今回の大会はランキングに反映される公式戦の扱いとはしていない。しかしリアルレースの延長上としてではなく、独立した種目のひとつとしてバーチャルレースを成立させるなら、選手権としての開催も可能と思える。解決すべき課題はまだ多いが、その可能性は十分あると今回の大会を見て思った。
次戦は6月21日、長野県飯山市のヒルクライムコースを使用しての「菜の花飯山ヒルクライムラウンド」が開催される。
text&photo:Satoru Kato
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June 08, 2020 at 05:08PM
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学連がバーチャルレースのシリーズ戦をスタート その可能性は? - JICF e-RACE 2020 nichinao-Tacx-iRCシリーズ第1戦 - cyclowired(シクロワイアード)
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