世界中が中国発祥の新型コロナウイルスと戦っている真っ只中にいます。感染力も毒性も強く、体の弱い人のみならず健康な人でも感染してしまい、既往症のある人たちを中心に重症化しやすい傾向があります。感染拡大防止のため、あらゆるレースや試合が中止され、人が集まらない、優勝賞金も放映権も入ってこない。スポーツ界は今まで体験したことがない非常事態に見舞われています。しかし、自転車競技では興味深い動きが始まっています。もしかして我々は、新たな時代の転換期の目撃者になっているかもしれません。さて、どんな時代か見てみましょう。
バーチャルの世界はスポーツの救世主に?
本来の自転車レースの仕組みを見てみましょう。
プロのロードレースチームはスポンサーから資金提供を受け、運営されています。レース賞金は微々たるもので、当てにされません。レースを運営する会社も基本的にスポンサーや自治体から資金を集めています。グランツールやクラシックレースのような大きな大会を運営する企業のみ、放映権、グッズや特別席の販売で利益を得ています。チームには渡りません。
ご存知の通り、2月から多くの国では新型コロナウイルスの急激な感染拡大の影響でスポーツイベントのみならず、人が集まる機会を減らすため、街や施設の封鎖、厳しい移動制限がかけられています。そのため経済活動が停滞し、スポーツを支える多くのスポンサーは、資金繰りが急速に悪化しています。プロチームでは出費を抑えるため、選手の賃金カットや、チームのスタッフを解雇する動きまで出ています。自転車競技も新型コロナウイルスの被害と無縁ではありません。非常に厳しい状況です。
こういう危機的な状態の中で多くのチームと大会運営母体が目をつけたのが、多数存在する自転車オンラインゲームです。「リアルな世界でレースができないのなら、バーチャルの世界で戦おう」という試みです。
自転車オンラインゲームは、本来ストイックでつまらないインドアトレーニングを面白くするためのゲームです。ゲームに対応できる機材(ローラー台またはサイクリングコンピューター)さえあれば、気候と天候、時間を気にせず、誰でも参加できます。むしろエアコンをつければ冬に、暖房をつければ夏にできるので気候も自由自在です(笑)。
利用料も安い。参加者が画面上でアバターを作り、一人でもグループでもバーチャルコース楽しめます。画面とローラー台が連動するので、コースに合わせて負荷が変わります。現在、Zwift(ズイフト)、BKool(ビークール)、Rouvy(ルービー)などが人気のようです。
なぜ急にオンラインゲームに人気が出たのか?
新型コロナウイルスが猛威を振るっている最中に、休業中の選手のモチベーションを向上させるだけでなく、自転車競技観戦から遠ざかるファンを取り込むため、チームも大会運営会社もファンがいる場所に入り込んだ形です。
プロに会える!プロと戦える!自転車競技が好きな人ならたまらないことです。本格的なレース再開までの重要な綱渡りです。
チーム イネオス(イギリス)、ミチェルストン・スコット(オーストラリア)、トレック・セガフレード(アメリカ)、ユンボ・ヴィスマ(オランダ)、バルディアーニ・CSF(イタリア)、 イスラエル・スタートアップネイション (イスラエル)、カハルラール(スペイン)などが次から次へ、オンラインイベントに参加し、場合によっては本物のレースさながらの生中継も行われます。まさにバーチャルとリアルの境目がなくなりつつあります。
3~4月の主なオンライン企画
Milano Sanremo Virtual Experience (3月19日、RCS Sports, Garmin, Tack主催)/3000人以上参加
De Ronde 2000, Lockdown Edition (4月5日、Sporza, Flanders Classic、Bkool主催)/プロのみ参加
Team Eneos Erace day(4月12〜13日、ENEOS、ZWIFT主催) (デジタル母体:Zwift)/自由参加
Giro d’Italia Legends(4月12日、RCS Sports, Garmin, Tack主催) (デジタル母体:ガーミン、Tack)/自由参加
Giro d’Italia Virtual(4月18日〜5月10、RCS Sports, Garmin, Tack主催)(デジタル母体:ガーミン、Tack)/自由参加(※HP準備中)
Digital Swiss 5 (4月22〜26日、Cycling Unlimited AG, Velon主催) (デジタル母体:Rouvy Indoor Cycling Reality)/プロのみ参加
選手の本音は?
活躍の場は本来レース会場ですので、選手のオンラインゲームに対する思いは様々です。
ドゥクーニンク・クイックステップ (ベルギー)のアンドレア・バジョーリ選手(イタリア)は、練習の息抜きとして積極的にズイフトに参加していますが、アンドレア・ヴェンドラーメ選手(イタリア、AG2Rラモンディアル)は拒否反応を見せています。トレーニングにならない上、参加者のデータは正確さに欠けるという理由からです。
2018年にプロを引退した元イタリアチャンピオン、ダミアーノ・クネゴは、インドアトレーニングとズイフトの両立を楽しんでいるそうです。イタリアのプロと元プロだけでミートアップ(プライベートグループ)を作ってズイフトを楽しんでいると話してくれました。
一方、目標をもって真面目にトレーニングをやりたい人はズイフトではなく、クネゴに成長できるメニューを求める人も多いそうです。
クネゴ自身も移動制限下で家から出られず、自宅トレーニングの効果を体験しながら、トレーナーとしての知識を生かしているそうです。
※ 興味のある方はこちらをクリック↓
https://officialdamianocunego.com/programma-allenamento/
レースシーズンはいつ再開されるか?
誰もが、レースシーズンの再会を心待ちにしています。だが、現実はそう甘くありません。7月下旬にツール・ド・フランスが開催されるという声も聞こえてきますが、ダミアーノ・クネゴやイタリア代表監督のダヴィデ・カッサーニは年内でのレース再開は難しいと述べています。
ただ、本来の姿のレースが開催できなくても、ファンを取り込むための新たなレースのやり方を模索しながら、自転車競技がまた成長できる余地はあると思います。
将来的に本場のレースをテレビ画面で見ながら、コースと選手のデータをPCに連動させ、プロと一緒に走りたいという願望を持っている人は、必ずいると思います。そしてこの新しい取り組みから新しいチャンピオンが生まれる可能性がなくはないと信じています。
さ〜、週末のオンラインレースに向けてローラー台を設置しよう!
東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ」
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