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F1レース数が減ると、F1チームにはどんな影響が及ぶのか? - Motorsport.com 日本版

 F1は今、これまでに前例のない状況に直面している。そしてこの年が今後どうなっていくのか、誰にもその先行きを見通すことはできない。

 すでにF1は開幕から9レースが中止もしくは延期となっており、6月28日のフランスGPから開幕することになっている。しかし、これが現実的な可能性であると考える人はほとんどいないというのが実際のところだ。おそらくより多くのレースが開催延期となり、延期開催の決定を待つリストに加わっていくこととなるだろう。

 F1のCEOであるチェイス・キャリーは、今シーズン15〜18レース開催するのが現実的だと語った。しかしその数字でさえ、現時点では楽観的なモノに見える、

 チームにとっての課題は、開催レース数の削減により、その収益も縮小してしまうということだ。そのためF1も各チームも、コスト削減を推し進めているのだ。

 現在ファクトリーが閉鎖されているため、新しいパーツは生産されておらず、風洞も稼働していない。移動や輸送に関するコストも発生していない。しかし、スタッフの給与など、様々な経費は引き続き支払わなければならないのだ。そのためマクラーレンやレーシングポイント、ウイリアムズなどは、ドライバーや上級スタッフの給与を削減し、スタッフを一時休職扱いとするなどしている。

 F1とFIAは、2021年から導入する予定だった新レギュレーションの導入を1年後ろ倒しするとともに、現在のシャシーの開発を2021年末まで凍結することを決めた。これによりチームの活動予算を削減することを目指したのだ。

 またチームは、すでに2021年の活動予算の上限を1億7500万ドルから1億5000万ドルへと引き上げることに合意。さらにこの上限を引き下げる交渉が、引き続き行なわれている。

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Lewis Hamilton, Mercedes AMG F1 W10

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Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images

 このコスト削減に関する動きは、全て懸命なモノと言える。しかしそれで十分なのだろうか? 最大の問題は、支出ではなく、収入にあるとも言える。それは全てのチームにとって、未知の恐ろしいことであろう。

 チームの収入は、最終的には実施されるグランプリの数と直接的な関係がある。現時点ではキャリーCEOが言うように、15〜18戦を開催できるのか、それとももっと少ない数のレースになるのか……誰にも予測することはできない。

 全てのチームは、所有者や投資家から提供される資金、スポンサーシップ、F1からの分配金という収入によって運営されている。

 いずれの収入も、当初設定されたスケジュールで入金されるため、それがいつになるのかをチームは正確に把握し、その資金を予算に割り当てている。しかし2020年は、この計画が一気に崩れた。

 まず最初に、スポンサーシップの詳細について検討してみよう。レース数の合計は1年ごとに変動しているため、22レース全てが行なわれなければ、スポンサーフィーの全額を受け取ることができない……ということにはならないだろう。しかし全てのスポンサーはシーズン全体を考慮し、マーケティングやプロモーションのプログラムを作り上げている。

 今年の特別な状況を考えれば、いくつかレースが失われたとしても、スポンサーフィーに影響を及ぼすことはないはずだ。実際一部のスポンサーは、予想された68%の露出しかなかったり、15戦しかレースが開催されなかったとしても、スポンサーフィー全額を支払うことになるだろう。

 しかし開催レースがさらに少なくなる場合、スポンサーの経営陣や株主は、契約金額の公正価格について尋ね始めるかもしれない。またスポンサーもそれぞれ独自の財政問題に直面しているのは間違い無く、チームとの友好的な関係を続けるのは、最優先ではないかもしれない。

「彼らのビジネスも影響を受けたはずだ」

 かつてフォースインディアのチーム代表を務めていたボブ・ファーンリーはそう語る。

「そして、それがどれほど悪いのかはまだわかっていない。つまり、スポンサーとチームの関係は通常ならば非常に密であり、スポンサーはチームをサポートするするためにできる限りのことをしてくれる。そしてある時点では、商業的な決断がそこに割って入る必要がある。結局のところこれは慈善事業ではなく、ビジネスなのだ」

 最終的に10〜11戦程度のシーズンになった場合、現在の契約に特定の規約がなくとも、一部のスポンサーが、支払額を元の金額の半分程度に求めてくるのは当然であろう。

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 一方、今シーズンがまったく行なわれなかった場合のことも想像してみよう。たとえ既にいくつかのプロモーション特典を受けていたとしても、一部のスポンサーが、支払額の大部分を返金するよう求めたとしても、決して不合理なことではない。

 それはチームが直面しているジレンマだ。スポンサーは通常、分割払いでスポンサー料を支払う。ただ、前半に支払う割合が大きくなる場合が多く、すでに支払われた金額でも、チームは返金を余儀なくされる可能性がある。また、シーズン後半の支払いは完全にキャンセルされることだろう。

 そういう意味では、スポンサー収入の減額は、全てのチームに同じような影響を与えることになるはずだ。

 しかし一方で、F1からの分配金については、小さなチームほど受け取る額がさらに減額されることになるかもしれない。

 この分配金は、現在F1とチームの間で結ばれているコンコルド協定に基づいて決められており、トップチームに支払われる固定金額と、F1全体の財務状況に応じて支払われる流動額に分けられる。

 流動額に含まれるのは10チーム全てで同一の額となる部分と、前年のコンストラクターズランキングに応じて支払われる額に分けられる。これはメルセデスが最大の額を手にし、ウイリアムズが最低額ということになる。

 一方固定額の支払いを受けられるのは、最長参戦チームであるフェラーリに払われるボーナス、フェラーリ、メルセデス、レッドブル、マクラーレンに支払われるタイトル獲得経験に関係するボーナス、さらにメルセデス、レッドブル、ウイリアムズに支払われるさらに追加のボーナスという形になっている。つまりルノー、レーシングポイント、アルファロメオ、アルファタウリ、ハースの5チームは、F1の収益によって金額が決まる、流動的な額しか受け取ることができないのだ。

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Chase Carey, Chairman, Formula 1 talks to the press

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Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images

 チームは分配金を2月末から受け取り始め、毎月の分割払いでその額を受け取る。

 流動的な額に関しては、F1の今後1年間の予測収入に基づいている。通常ならば開催権料、放映権料、F1全体へのスポンサー収入など、すでに確立された契約に基づくため、正確な予測はそれほど難しいことではない。その後実際の収入に合わせて調整が行なわれ、最終的な金額が確定することになる。

 重要なのは、F1が2月にチームへの支払いを開始した時には、2019年に達成された20億ドルに近い2020年の売り上げが予想されていたことだ。すでに中国GPの延期は決定していたが、日程を変更して開催するのは違いないと思われていた。

 しかし3月末までにオーストラリア、バーレーン、ベトナム、オランダ、スペイン、モナコ、アゼルバイジャンの各レースが中止もしくは延期されることが決まり、今ではカナダGPも延期されることが決まっている。

 キャリーCEOが言うように、F1が今季15〜18レース開催する方向で調整を進めているとすれば、3〜6レースの開催権料を失うことになる。その損失額は1億〜2億ドルになるはずだ。

 それだけでも全体の売り上げに大きな影響を与えることになるため、今後チームに支払われる分配金の額が、予想よりも低くなる可能性がある。

 ただ15〜18戦という目論見は、現在の新型コロナウイルスの状況を考えれば、楽観的な数字。開催レースの合計数はさらに少なくなる可能性がある。レースが開催されなければ、開催権料は払い戻されることになる。

 さらに15レースを下回ることになれば、放映権料も少なくなり、F1へのスポンサーフィーも、当然少なくなるはずだ。

 つまり開催できないレースが増えれば増えるほど、F1の売上額は下がり、チームに支払われる額も下がることになる。

 もし2020年に1レースも開催できないということになれば、開催権料も放送権料もスポンサーフィーも全て払い戻さなければならないということとなり、F1の売り上げはほぼゼロになる。つまりはチームへの分配金もゼロになり、今年後半のある時点では、チームはF1に対する負債を抱えることになる可能性すらある。

 ただ、トップチームに支払われる固定額は変わらないため、当初の予定通り支払い義務が生じることになるはずだ。

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Sebastian Vettel, Ferrari SF1000

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Photo by: Steven Tee / Motorsport Images

 理論的には、トップチームはたとえレースが全く開催されなかったとしても、F1から相当の金額を手にできることになるはずだ。特にフェラーリは、かなりの額になると想像できる。F1からの収益が大幅に低下するのは、他のチームだ。

 つまりレーシングポイントやアルファロメオなどのようなチームは、年間の収入額がほぼゼロになるかもしれない。しかしレースがなくても、固定費は支払わなければいけない。

 現時点ではまだその最悪のシナリオが現実のモノとなるまでには、まだ時間がある。9月にシーズンをスタートできれば、12戦を開催することもできるし、ロス・ブラウン曰く、7月にシーズンを再開できれば、19戦の開催が可能だという。

 ただMotoGPについてドルナが表明しているように、F1がチームをサポートすることはできないのだろうか? ただF1も収入が減り、チームへの固定費を支払うだけでも財政面での痛手となる。また、資金が足りないチームは、2021年の収入を先に受け取るということはできないのだろうか?

 この背景には、2021年から結ばれる新たなコンコルド協定がある。これはまだどのメーカーも締結しておらず、その内容については話し合いが行われているところだ。

 この新たなコンコルド協定では、今までよりも公平な形で収益が分配されることになるはずだ。しかし2021年の開催カレンダーが通常に戻ったとしても、2019年と同レベルの収益になる保証もなく、チームが受け取ることができる収益も不透明だ。

 マクラーレンのCEOであるザク・ブラウンは、先週テレビのインタビューで次のように語った。

「今年の収益は、とても少なくなっている」

「だから誰もがロックダウンしている。そして収益の不足を乗り切るために、支出を制限するモードになっている」

「このことは世界中の多くの企業に、多大な損害をもたらすことだろう。それはF1に限定されるモノではない。誰もが同じ状況にあると思う。優れたリーダーシップと、優れたマネジメント能力を備え、経営に成功した企業は、これを乗り越えられるはずだ」

「我々のスポンサーは、この時代に問題を抱えている。だから我々は、彼らを手助けしたいと思っている。政府が支援しようとしているが、残念ながら世界中のビジネスで多くの犠牲者が出ることになると思う」

 ブラウンが言う”犠牲者”のリストには、F1チームも含まれることになるだろうか? 我々にできることは、誰もが自分が生き残る方法を見つけることを、期待することだけだ。

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