重量級の市販仕様車でサーキットを激走
ジャガーの電気自動車「I-PACE(アイペイス)」を使用したワンメイク・レース「JAGUAR I-PACE eTROPHY(eトロフィー)」の2019-2020シーズンへの参戦を果たし、その挑戦を終えた青木拓磨選手が、9月12日(土)、国内のEVレースシリーズであるJEVRAシリーズ第5戦にスポット参戦しました。
「eトロフィー」で使う車両は、バッテリーやモーターなどは市販車と同じですが、ジャガーSVO(Special Vehicle Oparations)によるチューニングが施されているワンメイク専用車両です。今回はさすがにそのワンメイク車両を持ち込むわけではなく、青木選手が参戦するのは、普通に販売されている市販車と全く同じモデルとなります。これは青木選手が電気自動車への理解を進めることと、eトロフィー参戦に向けて車両感覚を確認するために、国内で現在使用してきた車両です。
(編集部注※つまりJRLJの広報車なのですが、ナンバーを見ると、昨年EVsmartブログでロングドライブレポートの際にお借りしたヤツでした)
ジャガー・アイペイスは全長4682×全幅2011×全高1565mmというサイズです。駆動用バッテリーは90kWhを積み、モーターは前後で2基搭載し4輪で駆動します。モーター出力が294kW(400PS)となるため、JEVRAの参戦クラス分けでは、テスラモデル3などシリーズ最強モデルが居並ぶEV-1クラス(モーター出力201kW以上)へと組み入れられることになります。
ただし、いかんせん車両車重が2208㎏とまさにヘビー級となっているため、レースには不利と言わざるを得ません。青木選手はこのアイペイスのドライバーズシートのみBRIDEのバケットシートに入れ替え、イタリアのグイドシンプレックス社のハンドコントロールシステムを組み込んでいます。そしてタイヤはヨコハマのADVANスポーツの最新モデルとなるADVAN Sport V105(255/45R20)を履いています。
青木選手は、元々は2輪レーサーとして国内外で活躍をしていました。1997年に世界最高峰のロードレース世界選手権(WGP)にフル参戦を開始し、戦闘力の劣るマシンを駆ってランキング5位を獲得。チャンピオン獲得を目指し行っていた1998年の開幕前のテストでの事故で下半身不随となり、それ以後、活動のフィールドを4輪レースの世界に移し、現在は積極的に車いすレーサーとして活動を展開しています。
アイペイスの出走は2回目だけど……
今回青木選手が参戦することとなったJEVRAシリーズは、全日本電気自動車レース協会(JEVRA)が主催する電動モーター駆動車のみで行われるレースで、現在11年目のシーズンとなっています。これまで市販車はもちろん、実証実験に使用された少数生産の実験車両などさまざまな電動車両が参戦しています。このジャガー・アイペイスもちょうど一年前の2019JEVRAシリーズ第4戦に参戦(ドライバーは菰田潔氏で、予選は2位、決勝でもテスラモデルSに続く2位を獲得)しています。
とはいえ、今シーズン圧倒的な強さを見せているテスラモデル3は昨年はまだ不在でした。はたして、モデル3と同じクラスで、青木選手がどんな走りを見せてくれるのかが、今回のレースにおける注目点のひとつです。
【シリーズ記事一覧】
●電気自動車レース『JEVRA』の魅力を再確認 【PART1】シリーズが続いてきた理由(2020年8月5日)
●電気自動車レース『JEVRA』の魅力を再確認 【PART2】EVならではの勝負どころ(2020年8月11日)
●電気自動車レース『JEVRA』の魅力を再確認 【PART3】テスラ『モデル3』の衝撃(2020年8月19日)
シリーズの第5戦となるレースの開催場所は千葉県にある袖ケ浦フォレストレースウェイです。このJEVRAシリーズは基本的にはレース距離を50kmとしたレースをしています。開幕戦もこの袖ケ浦のサーキットを使用しているため、今季2度目の開催となる今回は55kmレースとなりました。1周2.436kmの袖ケ浦のコースでの周回数としては21周から23周に開幕戦よりも2周多く走る必要があります。
この日は事前の天気予報では終日雨の予報が出ており、時折小雨が降る天候の下でのレースとなりました。午前8時20分から行われた予選セッションも雨は降っていないものの、路面はウェットです。
青木選手は真っ先にコースイン。ウェット路面を確認し、いったんピットロードへ戻り、コースの混雑を避けること、路面コンディションの回復も期待してしばし待ち、15分間のセッション終了間際になって再びコースイン。走行車両が少ないタイミングでのアタックを行ったものの、アタックラップの2周ともに他車に引っかかってしまいクリアラップが取れないままタイムアップ。結果は1分23秒016のタイムで、テスラモデル3の3台に続く4番手となりました。
セーブモードが起動して苦戦の決勝レース
そして、午後1時24分、少し雨が落ちてくる中、1周のフォーメーションラップの後にスタートした決勝レースでは、3番グリッドに並んでいた#0 テスラモデル3の千葉栄二選手がスタートミスをして後続集団に飲み込まれ、青木選手は難なくポジションを一つ上げて3番手でレースをスタートさせます。
序盤は順調に走行を重ねていましたが、4周目には熱アラートによるセーブモードが起動してしまいました。ストレートでは130km/hしか出ず、コーナーの出口でも立ち上がりがスローといった具合に、走行制限が掛けられた状態で、それでも青木選手はこれをだましだまし走らせていきます。
5周目には出遅れを挽回した千葉選手の0号車(モデル3)にパスされ、さらに後方からは、リーフ最強モデルと言える日産リーフe+を駆る#88 レーサー鹿島選手が近づいてきて、テール・トゥ・ノーズの厳しい4位争いを展開することとなりました。
セーブモードが起動したままの状態ながら、青木選手は堅実な走りでレーサー鹿島選手のリーフを抑え込んで、なんとかトップから2周遅れの4位でフィニッシュ。モデル3同士の熾烈なトップ争いとともに、アイペイスとリーフe+の4位争いが長時間繰り広げられることとなり、観客にとってはとても見応えのあるレースとなったのでした。
青木選手へのインタビュー
レースを終えた青木選手にお話しを伺いました。
青木選手のコメント
今回ドタバタ参戦でしたが最後まで走れて良かったです。eトロフィーのマシンとはベースは同じ車両ですが、あっちのマシンは徹底的に軽量化されていて、ECU(Electronic Control Unit)も別モノでしょう。もちろんサスペンションやブレーキも異なっていますし、冷却対策もしっかりできていますね。
同じ距離を走るにしてもこんなに制限が入るとは思っていませんでしたし、ずいぶん早くから制御が入ってしまって厳しかったです。アクセルを全開にしても反応しなくて、僕は走行中、ベルトで足を固定しているんですけど、足がブレーキペダルに載ってしまっているんじゃないかと勘違いするほどでした。
今回初めて他のEVとの混走でのレースとなりました。テスラモデル3が予想以上に速かったですね。リーフもクラスとしては下位クラスなのに、せっつかれてしまいました。
2トン越えのクルマですからコーナーは無理できませんし、(5位に入った)鹿島選手とは速いところと遅いところが違っていたので、それを分析しながら、焦らずミスせずと注意して、なんとか走り切ったって感じです。5位になっちゃうかなと心配しましたが、最後までポジションをキープしたまま走り切れて良かったです。
JEVRAシリーズじゃ残り2戦あるのですが、すでに予定が入っていて今シーズンはこの一戦だけの参戦となります。来シーズンの参戦も考えていこうと思っています。
(コメント、以上)
テスラモデル3のパフォーマンスは、サーキット走行に特化した「トラックモード」というプログラムを備えています。次回、青木選手が再びアイペイスでJEVRAにチャレンジする機会があったなら、eトロフィー車両とはいわないまでも、熱対策やトラクションコントロールなどの制御をレース用に調整したマシンで、打倒モデル3を目指して欲しいな、とも期待(JRLJさんの協力が不可欠ですね)してしまいます。
レースは、開幕4連勝であったテスラモデル3を駆る地頭所光選手(#1 TAISAN 東大 UP TESLA 3/EV-1クラス)がまさかの発熱のため不参戦。開幕から常に2位に甘んじてきたTAKAさん(#33 適当LifeアトリエModel3)が初優勝を飾りました。
TAKAさんは「地頭所選手不在で、棚ぼたと言われるかもしれませんが、勝ちは勝ちですので素直に喜びたいと思います。次はちゃんと地頭所選手とバトルして勝てるよう頑張りたいです」とのことでした。
(取材・文/青山 義明)
【関連記事】
●車いすのレーサー青木拓磨がジャガーアイペイスでのレース挑戦を振り返る(2020年9月10日)
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September 18, 2020 at 08:55AM
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